ドキュメンタリー「走近大涼山」の中で男児と肩を組む竹内氏(写真中央)
解読中国工作室とドキュメンタリーディレクター・竹内亮氏が共同で製作したドキュメンタリー「走近大涼山」が4月28日から中国や日本の各テレビプラットフォームや動画プラットホームで配信されている。人民日報海外版が報じた。
竹内氏はNHKなど日本のメディアで長年仕事した経験をもち、2013年8月に中国江蘇省南京市に移住した。その後、中国をさらにじっくりと観察して、記録し、「私がここに住む理由」や「新規感染者ゼロの街-南京」、「お久しぶりです、武漢」、「中国アフターコロナの時代-『逆転勝利の法則』とは」などのドキュメンタリー紀行番組を製作し、その独特の作風が中国や日本で好評を博している。
竹内氏は2010年、NHKのドキュメンタリー「長江 天地大紀行」の番組取材で、四川省涼山イ(彝)族自治州大涼山地区を取材した。そして10年後の2020年7月、解読中国工作室の招きを受けて、竹内氏は再び大涼山を訪問し、彼の視点で、そこで起きている貧困削減のエピソードを記録した。竹内氏は同ドキュメンタリーを製作することにした理由について、「大涼山は今どうなっているのか、この目で見たくなった」と冒頭で説明している。
「走近大涼山」でも、竹内氏がこれまで貫いてきた作風を引き継いでおり、その個人の旅行の体験を軸に、大涼山で今起きている大きな変化を紹介している。キーというブレーキ音を鳴らしながらゆっくりと駅に停まる「緑皮車」(従来の普通列車)に乗り、緑の木々が茂る山の間を走る列車を上空から撮影する。竹内氏のドキュメンタリー作品はいつもこのようにして始まり、列車に揺られながら、その後の旅への期待を高めていく。
10年前に、山は高く道は険しいことで知られる大涼山を訪れた時、竹内氏は、撮影機器を自分で担いだり、ロバの上に載せたりして取材するしかなかった。しかし、今では、舗装されていないドロドロでガタガタの道も多いものの、撮影チームは車で村民の家の前まで行くことができるようになっている。鉄パイプ製の階段が設置された懸崖村(アチュラー村)に行く途中で遭遇した水を売る高齢女性は、慣れた手つきで支付宝(アリペイ)のQRコードを見せていた。また、貧困脱却のための移転先で新しいスキルを学んだ人々を見ると、大涼山で起きている活力を感じることができる。
俄木依伍さんは、四川省涼山彝族自治州昭覚県の懸崖村の近くの、標高約1400メートル、地上から垂直距離約800メートルの位置にある哈甘郷の元村民。その村の人々は以前、村から下りるために断崖絶壁に設置されたつるや木で作られた梯子を使っていた。そんな交通が不便な場所に住んでいた俄木依伍さんらは今では豊かな生活を送るようになっている。彼女の2人の娘は奨学金をもらって大学を卒業し、現在は教師の仕事をしている。夫は、今でも出稼ぎをして家計を支えている。貧困脱却のための移転先で、伝統的な刺繡の技術も磨き、俄木依伍さんは新しい幸福の道を今歩んでいる。
取材中、竹内氏が、「僕は南京から来たのですが、南京は知っていますか?」と聞くと、俄木依伍さんは、口を手で押さえ、笑みを浮かべながら恥ずかしそうに首を振っていた。山から移住したばかりの俄木依伍さんは普通話(標準中国語)を流暢に話すことはできないものの、ボロボロの土づくりの家で一人で自給自足の生活をし、つるや木で作られた梯子だけを頼りに、外部とつながっていた女性ではなくなっている。貧困脱却のための移転先となっている昭覚県の団地に住むようになって以降、俄木依伍さんは、外部から孤立した状態から脱し、いろんな人と交流したり、外部の情報を入手したりできるようになっている。彼女は、県が設置しているイ族伝統の刺繍を学ぶクラスを通して、刺繡製品を作って売ることで、家族の世話をしながら、収入を得ることができており、自分の手で「運命」を変えている。
さらに一歩踏み込んだ取材をするために、竹内氏は昭覚県のサッカークラブを訪問し、外国人コーチや地元の小学生と交流する。また、年に一度のイ族の祭り「火把節」に参加したり、イ族の家庭を訪問し、地元の料理を楽しんだりする。そして、竹内氏は、現地の人々が山を降りて、新しい世界を見て、いろんなことを学んで、貧困を脱却しようとしている強い意欲を感じ取り、さらに、より良い生活にあこがれ、故郷をもっと良くしたいと願う現地の子供たちを見て、新しい希望を感じる。
「走近大涼山」では、貧しい生活をネガティブに描くことは全くしておらず、日本人が旅をしながら自然と地元の人々の生活に溶け込み、興味深い経験をしている人たちに出会っており、見る人はポジティブなイメージを抱くことができる。
「走近大涼山」は間もなく、日本メディアでも配信される計画で、多くの日本人が中国の貧困削減をめぐる物語を知る機会となるだろう。竹内氏は、「リアルな中国を紹介したい。多くの日本人が中国の『黒』の部分しか見ていない。だから、日本人のために『白』の内容を準備した」と話している。(編集KN)
「人民網日本語版」2021年5月14日