中国ではここ数日、浙江省の複数の景勝地で全く疲れない登山として「無痛登山」を実現しているとネットで話題になっている。
あるネットユーザーが投稿した同省杭州市淳安県の天嶼山に設置されている長いエスカレーターを捉えた動画を見ると、エスカレーターの両側からはミストが噴射されており、観光客はエスカレーターに乗ることで、美しい景色を楽しめるだけでなく、頂上まで楽々とたどり着くことができる。
ネットユーザーからは、「一歩も登らずに、景色を余すところなく楽しめる!」と景勝地を称賛するコメントが寄せられる一方で、「こんな山登り、楽しいの?」と否定的なコメントも寄せられている。
天嶼山は登山の不便さを解決するために設置
淳安県建設集団城市旅游開発公司の責任者である徐さんは、エスカレーターを設置した目的について、「当初の目的は単純に登山の不便さを解決するためだった」と説明している。
天嶼山の標高はわずか約350メートルほどであるものの、登頂するには蛇行した山道を延々と3キロも登る必要があり、高齢者や体の弱い人、身体障がい者にとっては決して楽な道のりとは言えない。徐さんは、「当初はロープウェイの建設も検討されたが、輸送能力に限界があるため、より多くの人が利用でき、景勝地の運営ニーズを満たすことができるエスカレーターを設置することになった」という。そして、2022年9月に、同社は約1000万元(1元は約20.5円)を投じて、「無痛登山」を可能にするエスカレーターを設置した。
エスカレーターが設置されたことで、観光客が頂上まで登るのに必要な時間は50分から10分にまで短縮されたという。
天嶼山のエスカレーター(写真提供・取材対象者)。
選択肢を増やすためのエスカレーター設置
天嶼山のほか、同省台州市の神仙居景勝地にも約100メートルのエスカレーターが設置されており、「南天梯」と称されている。
「南天梯」は、2020年の国慶節(建国記念日、10月1日)前からその運用が始まり、上りと下り計4本が設置されている。1本当たり1時間に3600人を輸送できる。
浙江神仙居旅游集団マーケティング部の関係責任者によると、「エスカレーターの全長は104メートル。山の麓から頂上までわずか4分ほどしかかからない。ここは国家5A級(最高ランク)の景勝地で、面積は60平方キロメートル。標高は最高で約900メートル。ほとんどの観光客は、短時間で各スポットを回ろうとすると、疲れ切ってしまうことになる。観光客の体験を向上するべく、神仙居は山の麓から頂上まで行ける北海南天ロープウェイのほかに、『南天梯』も設置した」と説明する。
そして、「『南天梯』設置の当初の目的は、高齢者や子供にも楽に登頂してもらうことだった。若者であっても、山登りというのは疲れるものだ。そこでショッピングをするような気軽な感覚で登山してもらいたいと思った。しかもエレベーターであれば、同時に大自然に触れ合う楽しみを妨げることもない」としている。
神仙居のエスカレーター(写真提供・取材対象者)。
どの景勝地でもエスカレーター設置は可能?
近年、中国の多くの景勝地がエスカレーター設置を模索しているものの、実現するのは容易ではない。また全ての景勝地がエスカレーター設置に適しているわけでもない。
徐さんは、「山の地形がエスカレーター設置に適しているか、そしてエスカレーター設置のコストが景勝地の営業に見合っているかの2つを主に考えなければならない」と指摘する。
そして、「エスカレーターの傾斜角度は通常30度以下。傾斜角度が大きすぎたり、高度が高すぎたりすると、観光客にとっては、危険が伴うことになる。天嶼山の地勢は相対的に平坦で、加えて山の下に広がる千島湖は長江デルタにおいて一定の知名度を誇る。この2点が、エスカレーター設置を後押しする要素となった」と説明する。
さらには屋外エスカレーターを山に設置した場合、毎日日が当たったり、雨ざらしになったりするため、破損や老朽化といった問題が起こりやすい。そのため、エスカレーターのメンテナンススタッフを常時配置しなければならないほか、定期的にエスカレーターのチェーンや電気系統などの点検を行わなければならない。
徐さんは「無痛登山」に対するネット上の賛否両論に対し、「エスカレーターのせいで登山できなくなったというわけではない。あくまで観光客の景色の楽しみ方の選択肢を新たに増やすもの」としている。(編集KN)
「人民網日本語版」2023年10月16日